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 十二月二十四日、クリスマスイブ。この日の夕方から翌日にかけて行われる聖誕祭。
 もちろんお祭り事が大好きな彼等は、この機を逃すはずが無かったのだが
 悲しいことに彼等には、この日を共に過ごす恋人という存在がいるはずもなかった……

番外編 独り身達のクリスマス 

「よ〜っし!! グラス行き渡ったか〜?」
「たった三人相手にいちいちそんな確認すんな」
 春香の掛け声に、その場にいた参加者の一人から冷静なツッコミが入る。
「一目瞭然だろ。んな確認したら余計に虚しくなるじゃねぇか」
 健吾は溜息混じりで春香に愚痴をこぼした。他の参加者も同感と首を縦に振る。

「だいたい四人なんて聞いてないわよ? 責任者は誰よ?」
「春香に決まってるだろ? 結城さんは、このパーティに計画性が感じられるのか?」
「いや、それは微塵も感じられないけどさ……」
 さやかは、ここにいる誰が主催であっても計画性は感じられないだろう、と密かに思っていた。
 藤木雄二、井上春香、高槻健吾、結城さやか。井上家の一室に四人の独り者が集められた。

「なんで私なんて誘ったのよ!? 思いっきり場違いじゃない!!」
「し、しょうがねぇじゃん。俺、春香以外じゃ結城さんくらいしか女の友達いねぇし……」
 春香と健吾に聞こえないように、雄二とさやかは小声でぼそぼそと言い争う。
 雄二には知り合いならば女性もそれなりにいたが、友達と呼べる者はさやかくらいのものだった。
「それにしても、よくもまぁ……よりにもよって、魔女なんか連れてくるよな」
「私の名前は結城! 結城さやか! 魔女なんかじゃないわ!」

「D組の結城さやかだろ? だったら魔女で合ってるじゃねぇか」
 さやかの文句にまったく怯むこともなく、健吾はしれっと言ってのける。
 実際に湊大付属高校では、結城さやかの二つ名は夏の終わりには既に定着していた。
 結城さやかの名前は知らなくても魔女という二つ名は知っている、そんな生徒もいただろう。
「アンタねぇ……仮にも初対面の人間に魔女はないんじゃないの?」
「わり、初対面のような気がしねぇ」
 健吾がそういうのも無理はない。さやかの噂話は人物像を想像するには十分すぎるほど存在する。
 中でも『夏休みの三十人斬り』は湊大付属高校では伝説と言われるほどの逸話になっている。
 恐ろしいのは三十人とのデートで自分は一切お金を使わなかったということと
 その日のうちに「二度とアンタとはデートはしない」とバッサリ言い捨てたことである。

「ねぇ、いつになったら乾杯するんよ? いいからグラス持ちな」
 いい加減イラつき始めた春香の一言に、参加者達はしぶしぶグラスを持ち上げる。
「んじゃ、私らにゃ恋人達の夜なんて関係ねぇべ。かんぱ〜い」
「「「かんぱ〜い……」」」
 春香の微妙な音頭取りと共に、独り身達の寂しいパーティは始まった……


「しっかし、何処ぞのバカの誕生日のために、ここまでやる必要あるのかねぇ?」
「単にお祭り騒ぎがしたいだけだろ……」
 春香の素朴な疑問に、雄二は的確な解答を返す。
「だけどよぉ、なんで恋人達の日になっちまったんだろうな?」
「私に聞かれてもわかるわけないでしょ」
 さやかは初対面の健吾に対しても、物怖じすることなく反論する。
 そもそも彼女の辞書に人見知りという言葉は存在していない。

「さやかは誰か一緒に過ごす奴いなかったん? アンタなら誰かいそうなもんだけどねぇ……」
「別に……見知らぬ男と過ごすよりは藤木君達と過ごす方が面白いかなって思っただけよ」
「そりゃ、断られた野郎も可哀想にな……」
 健吾はしみじみと語り、コップに入った麦ソーダを飲み干した。
「え? 私、断ってなんかいないわよ?」
「は!? ちょっと待った!! じゃあ、相手の奴はどうすんだよ!!?」
 聞き捨てならないセリフに雄二は間髪入れずに問い詰めた。

「さぁ? 寒空の下で私を待ち続けるんじゃないの?」

「コイツ……悪魔かなんかか?」
「悪魔より酷いネ」
「いや、お前もそうたいして変わら……ぐはっ」
 雄二は健吾の一言には同意できたものの、春香のセリフにはつっこまずにいられなかった。
 しかし春香は、そんな雄二の顔面に拳を入れることで続きを語らせない。
「お、お前……ノーモーションで裏拳を入れんなよなっ!!」
「油断した雄二が悪い」
「パーティの時くらい油断させろよ……」
 鼻面をおさえながらぶつぶつ文句を言う雄二は、虐められっ子を彷彿とさせた。

「わざわざ独り者になってあげてるんだから、感謝してくれてもいいんじゃない?」
 平然と語るさやかに雄二達三人は到底感謝の気持ちなど持てそうになかった。
「雄二……お前、よくこんなのと友達になったな」
「今更だけど、自分でも不思議に思えてきた……」

「アンタ、高槻君だっけ? 本人目の前にこんなのはないんじゃないの?」
「そいつぁ悪ぃな。俺はそれなりに人を見て物を言う性格なんだ」
 そう言うと健吾はまたしても一気にコップの中身を飲み干す。
「悪いな結城さん。健吾ってこういう奴だけど、悪い奴じゃねぇんだ」
「そうそう、だからあんまり気にしなさんな」
 ムッとしたさやかの表情を見て、雄二は慌ててフォローに入る。春香もそれに続く。
「別に怒ってるわけじゃないわ。変な気遣いすぎよ」
「そっか。ならよかった」
 安心したように雄二は麦ソーダを飲む。さやかはそんな雄二を見て思う。
(人付き合いには敏感な奴なのね……)




ウォン、ウォン、ウォゥン!!!


 静かな町に、遠くからバイクの集団が走る音が聞こえる。その瞬間、春香は立ち上がった。
「族だ!!!」
 このときの春香の目の輝きを、さやかは生涯忘れることはできなかった。
「行くぞ雄二!! 耳障りな音を止めに行くぞ!!!」
「お、おい!! 春香!?」
 鉄砲玉のように部屋を飛び出した春香を止めようと、雄二が声をかける。
 しかし、春香は雄二の声で止まるわけがなく、そのまま走り去ってしまった。
「ったく、しょうがねぇ奴だなぁ!!! 健吾、あと頼む!! 三十分ほどで戻る!!!」
 そう言い残し、春香を追いかけて雄二も部屋を飛び出していく。

「あ〜あ、今日くらいおとなしくできねぇのか、アイツ等は……」
 残された健吾は溜息混じりに肩をすくめる。
「アンタは行かなくていいの?」
「ん? 俺が行ったら結城一人になっちまうだろ?」
 確かに、ここで健吾まで飛び出してしまうと、春香の部屋にはさやか一人が取り残される。

「ま、アイツが後頼むって言ってんだから、俺が行くまでもねぇってこったろ」
「でも相手は暴走族よ? 何人いるかもわからないじゃない」
 健吾の物言いに納得できないさやかは、健吾に質問を重ねていく。
「アイツ等なら心配いらねぇよ。あのコンビが負けるわきゃねぇんだからよ」
「……確信してるのね」
 さやかの質問に応えることなく、健吾はグビグビと麦ソーダを飲み始める。

「三十分後になりゃわかるって」
 まったく心配していない、という風に料理を食べ、飲み物を飲む。
 その様子を見たさやかも、おずおずとだが料理をつまみ、パーティを再開させた。










 そして、二十分後……夜の湊市には先ほどの騒音が信じられないほどの静寂が戻ってきていた。



あとがき
何ゆえ、クリスマス記念を書いたのか自分でもわかりません。
急にネタを思いついてから3時間後に書きあがっていました。
クリスマスパーティの話を書こうと思ったら、ネタが簡単に出ちゃったよ。
雄二達の高校1年生の時の話です。久々に彼等でコメディ書いたかも……

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