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 当時、雄二はそんなに問題行動を起こしていなかった。
 井上さんとつるんでいたために危険な存在になっていた。
 そう、あの日までは……。

番外編 言ってはならないNGワード <<トモキ>>


 学校生活にも慣れてきた7月。もうじき夏休みだ。
 僕は学校の勢力状況、ならびに危険な人物の調査中だった。
 

 僕達1年生のなかで、もっとも危険な人物、井上春香。
 入学式当日に幼馴染と遅刻。翌日、男子の先輩と肩がぶつかっただけで殲滅。
 後日、報復に出た先輩3名を3分で返り討ち(1人1分)。
 2名は保健室で一日、1名を病院に送り、全治1週間の怪我。
 5月の段階で上級生が道を譲る存在となる。
 
 手帳の次のページをめくる。


 その井上春香にもっとも近しい人物、藤木雄二。
 特に目立った問題行動はなく、成績も普通。スポーツは万能のようだ。
 しかし、井上春香にかなり暴力を振るわれているらしい。


 見たところ何も問題点はない普通の生徒だ。
 と、すると……
「可哀想に……」
 井上春香の幼馴染であるがゆえに危険人物の仲間入りを果たしているのだ。
 藤木雄二という人物に本気で同情した。

 勢力としては井上春香はたった一人。しかし、かなりの権力を持っている。
 不良達、いわゆる番長グループにも影響が出ている。
 どんどん人数が減ってきているのだ。
 原因は言うまでもないだろう、物理的に不良界から消されているのだ。

 
「だから違うっつってんだろ」
「じゃあ、あれはなんなんだよ」
「俺が知るわけねぇだろ」
 大声を出しながら2人の男子が歩いている。
 一人は今、手帳で見ていた藤木雄二。
 もう、一人は……高槻健吾だ。

(へぇ、二人は友達だったのか……確か同じ中学の出身だったなぁ)
 手帳に新たに得た情報を書き込んでいく。
 友人欄に高槻健吾の名前を記入する。

 よく近づく気になれるもんだ。
 藤木雄二の友達になるということは井上春香に関わることになるということだ。
 僕なら絶対に近づかないね。
 何をやらされるかわかったもんじゃない。

「気ぃつけろ!!」
(ん?)
 僕が再び藤木雄二達の方を見ると2人は先輩3人に謝っていた。
 どうやらぶつかってしまったらしい。

「「 すんません 」」
「けっ、井上の腰巾着が……」
 そう藤木君を罵ってから先輩達は階段を上がっていった。

「おい、ちょっと待てボケ。今なんつった」
 静かな空間にドスのきいた声が響く。藤木君が言ったのか……?
「雄二、抑えろ!!」
 それを止める高槻君。
 どうやら本当に藤木君が先輩に反論したようだ。
 黙って放っておけば怪我することもないのに……。

「あん? なんか文句あんのかよ腰巾着?」

ゴッ!!

 それ以上は言わせなかった。
 藤木君が相手の顔面に思いっきり拳を叩きつけていたからだ。
 約10m離れたこの場所にもすごい音が鳴り響いた。

 さらに胸倉を掴んで強引に起こす。
「てめぇ、その腰巾着がどれほどひでぇ目にあってんのか分かって言ってんのか!?」
「やめろ雄二!! そいつには分からん!!」
 前後に揺らしながら続ける。

「好きで腰巾着やってんじゃねぇんだよ!! 代われるもんならとっくに代わってんだよ!!」
「分かった!! お前の苦労は俺が分かってるから!!」
 なんなのだろうこの場面は……。

 何の問題も起こしていなかった藤木雄二が先輩を殴って訴えている。
 しかもその内容は八つ当たりに近い。
「そんなにやりてぇならおめぇがやれよ!! こっちは喜んで代わってやるっつうの!!」
 さっきの可哀想だと思った気持ちが粉々になっていく気がする。
 いや、可哀想なのは確かだが……何かが違う。

「っていうか、むしろ代われ!! 3日で嫌になるぞ!!」
「雄二、無茶を言うな!! やめろって!!」
 なおも前後に揺らし続ける藤木君を必死で止める高槻君。
 一番可哀想なのは彼かもしれない。

「離せ健吾!! コイツにも俺の苦労を分からせんだよ!!」
「もう伝わった!! 十分に伝わってる!!」
「いや、こいつの口から謝罪が聞けるまでやめねぇぞ」
「無理!! そいつ気ぃ失ってるから!!」
 その後も前後に振り続け、先輩が目を覚まして謝罪するまで藤木君は揺らし続けた……。

「健吾、今日は飲むぞ!!」
「ああ、付き合ってやるよ……」
 散々暴れて帰っていった2人のあとには半死人になった先輩とそれを介護する2人の先輩。
 そして、数名の野次馬が残ったのであった。

 僕はすぐさま藤木雄二のページを破り捨て、書き直した。


 藤木雄二。井上春香にもっとも近しい者(相棒)。
 成績は普通、スポーツは万能。喧嘩もかなりできる。
 タブーは「井上春香の腰巾着」。
 以前これを言った先輩1名が半死人となった。
 井上春香の幼馴染ということとは関係なく危険人物である。

「これでよし、と」
 手帳を閉じて僕は帰りの準備を整えるのであった……。

 その翌週には藤木雄二は立派に危険人物の仲間入りとなっていた。
 それと同時に井上春香の腰巾着というイメージも消滅した。
 そして、そのワードは全校生徒にとって暗黙の禁句となっている。
 なお、この件に関して、僕はなんの情報操作もしていないと言っておこう。


そして、この出来事から約1年後……。
僕が藤木雄二という人物とクラスメイトになっているなんて
そのうえ、友達になっているなんて、当時の僕に想像できるわけがなかったのだ……。



あとがき
4万HIT記念作品。
智樹が雄二を初めて見たときの話です。
もうちょっとシリアスな話になるはずだったのに……何故?
ま、いっか。これはこれでいい話じゃないですか?

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