私は湊大学学長、ならびにその付属高校の校長である。 桜の季節は出会いの季節……。それをプロデュースするのが私の役目だ。 当然、毎年恒例のこの儀式すらその範疇に入るのである。 大学ではクラスというものはほとんど意味を成さない。 当然クラス分けなどというものは無く、やることもほとんど無い。 せいぜい入学式で適当な話をする程度だ。 「それよりこっちよ。こっち……」 よく分からないどうでもいい書類を放り出す。 それは高校2年のクラスわけ。メインイベントとも言える行事だ。 「教頭、例の物を」 「あの、校長……」 おずおずとおっさん教頭が私に意見を言いたそうだ。 「なぁに?」 「また……やるんですか?」 毎年、聞いてくるがまだ諦めがつかないのか? 「当然。生徒の安全を確保しなくてはならないでしょう?」 「はぁ……」 そう言って教頭はファイルを差し出してくる。 生徒の安全というのは当然、建前だが、正当な理由にするには十分だろう。 「え〜、まず井上春香ちゃんは間違いなく特殊クラス入りよね〜」 あの暴走っぷりには惚れ惚れする。 一週間に一度は何らかの問題を起こしてくれる。 「井上春香を入れるのでしたら彼も必要になります」 「藤木君ね。でも、少し可哀想よねぇ」 生徒指導室に井上春香が来る場合、ほとんど彼も一緒に来る。 100%巻き添えをくらっているので職員室では生贄扱いである。 「では彼の友人を特殊クラスに入れましょう」 ファイルにある友人リストから数人を入れる。 教頭のファイルには一芸に秀でた特殊クラス入り候補生徒がリストアップされている。 「そうね。え〜、高槻君でいいかしら?」 「彼がいれば十分でしょう」 これで3人。あと37人も選ぶことができる。 「あと、この生徒はどうですか?」 「田村直人君? 借り物競争で学校から出てった子ね」 彼は学校から抜け出して借り物であるお玉を近所から借りてきた。 素質としては十分である。 根っからのコメディアン気質といえるだろう。 「あと、彼女も欲しいわね」 「結城さやかですね」 彼女ほど男心をくすぐるのがうまい生徒はいない。 これからの成長次第では怖い女性になりそうだ。 これで5人……。 「あら? この子は?」 ファイルに見覚えの無い名前があった。 「斉藤有香ですか……。先日、空手部の道場で空手部員を全滅に追い込みましたので」 「へぇ、やるわねぇ。入れといてちょうだい」 「はい」 今まで本性を隠していたのか……? 不思議な子ね……。 「あと私から一人推薦したい子がいるんだけど……」 「リストにない生徒ですか?」 「ええ、谷口智樹君。特殊クラスにはピッタリの子よ」 教頭が一般生徒のファイルから谷口君のリストを見る。 「特に何の問題も無いようですが……?」 「隠してるのよ。この子は特殊クラスの中枢になるかもしれない子よ」 「はぁ……」 納得していない教頭。当然だ、私も偶然彼の本当の姿を見たのだから。 校内で何かしら問題が起きたとき、常に現場にいる生徒が彼だ。 なにをしてるのか望遠鏡で覗いたときにはビックリした。 なんせ、事細かに状況をメモしていたのだから……。 「今年は本当に粒揃いよねぇ」 「否定はしません」 去年より圧倒的に優秀である。ある意味だが……。 「ナナはどうするの?」 「彼女は特殊クラスに入れないほうがいいかと」 彼女を入れないほうがいいという理由も分かる。 事務所のほうがうるさいからねぇ……。 私もその意見に同意だ。 「彼女は無難なクラスに入れて様子を見たほうがいいのでは?」 惜しい、実に惜しい。アイドルなんて特殊クラスにぴったりの人材なのだが。 「特殊クラスの状況次第では来年……ね」 「はい、ではそのように」 「では、あと33人。ちゃっちゃと決めちゃいましょう」 「はい」 ファイルにある危険度の高そうな人物をリストアップする。 そして男女20人になるように操作していく。 「あとは担任なのですが……」 「例の物を」 「はい」 段ボール箱を教頭に持たせる。 「誰がジョーカーを引くのか……楽しみよねぇ」 箱に手を入れ、ボールを選び出し、1つのボールを出す。 「では、担任は彼に」 「ええ」 担任は完全にランダムだ。全員平等がモットーである。 「今年は何組にしますか?」 「そうねぇ……」 A〜F組。特殊クラスは何組にしたものか……。 引き出しをごそごそやっていると1つのある物体が指先に触れた。 「これで決めましょ」 「サイ……コロですか」 ちょうど6面体だ。クラスを決めるのにうってつけ。 「ほいっ」 親指に乗せたサイコロを人差し指ではじく。 校長室の絨毯に白いサイコロがコロコロと転がる。 「では、特殊クラスはB組ということで……」 「あとは任せるわ」 「了解しました」 さぁ、今年はどんな面白い年になるのかしら……。 それを想像するだけで楽しみで仕方ない。 高校ならではの様々なイベント。それを特殊クラスの人間がどう対処するか。 「文字通り、犀は投げられた……か」 投げたのは私。動くのは特殊クラスの40人。 教頭が退室したあとで私は呟いた。 これはギャンブルだ。ひとつに纏めたクラスがどういう風に変わっていくか。 纏まるか、バラバラになるか。 もっとも、まったく心配はしていないのだが……。 |
あとがき 5万ヒット記念です。 即興で書いたので自分でもどうなのか分からないですけど てっきり明日になるもんだと思ってたんで…… |